TATSURO KISHIMOTO

2025年1月18日(土) ~ 2月15日(土)
営業時間12:00~19:00
定休日: 日/月/火/祝日


 この度、TATSURO KISHIMOTOでは大久保薫個展「あたたかいへや」を開催いたします。本展は作家にとって約4年半ぶりの個展となります。

 大久保は学生時代から一貫して「肉体」をモチーフに絵画制作を続けています。その「肉体」は主に男性の肉体で、大久保にとって一番身近でリアルなものであり自然な形で描けるものです。

 これまでの制作発表の場においては、威圧的なポーズをとる権力者の男性像や演劇的なポーズをする紳士像などが描かれてきました。それらは大久保にとって、嫌悪感や恐怖の対象であるとともに、一方で理想の姿でもありました。絵画に昇華させていく過程では、肉体への抵抗感や湧き出る情感を除き、より肉体を客観視するためのさまざまな手法が試みられてきました。例えば、長い柄の先に絵筆を取り付けわざと描きにくくする手法、おびただしい数のドローイングを経て腕が覚えるほどに熟練した図案をキャンバスにトレースする手法、大型サイズのキャンバスで一度習作し自らのエネルギーや情感を発散させた後に小さいキャンバスに描く手法。また、人物像の前にフェンスや鎖を描くことで表現的にモチーフを遠ざけることもありました。これらはすべて「肉体」に対する自らの主観を排除しようと試みてきた抵抗の道筋でした。
 
 今回の個展「あたたかいへや」では、脂肪がついて背中の曲がった中年の男性像が描かれます。それはモデルのように人に見せるための肉体とは正反対で、時の経過を受け入れた肉体です。大衆浴場でよく見る湯の中で伸び切った肉体、サウナと水風呂を何度も反復し弛緩していく肉体、、、このようなリラックスした肉体に着想を得ています。しかしながら、リラックスした状態は、一方で疲れ切ってうなだれている状況でもあり表裏一体です。「どんな立場や身分でも銭湯では皆裸になるから平等で開放的な空間に見えるが、実際は塀に囲まれた限定的な見せかけの空間」と回想する大久保は、「あたたかいへや」というタイトルに両義的な意味を暗に含ませます。

 そして今回の制作過程では、これまでのように自身の主観を排除するような手法は用いず、直にキャンバスに向かいます。大久保は、これまで恐怖や嫌悪の対象でありつつ理想でもあった肉体が、年齢を経て自分に“近しい”ものになったと述べており、このような心境の変化も制作手法に影響を与える一因となっています。

 “肉体とは何か” 肉体を持って生まれた私たちに生きている限りつきまとうこの根源的な問いに作家は立ち向かい続けているのかもしれません。幾重にも塗り重ねられた細やかな線描と粗さの均衡、大胆な筆致と静穏な筆致。大久保による肉体の表現をぜひ画面間近で堪能いただけたら幸いです。

Installation View

Works